膵移植について
膵移植とは
1型糖尿病の患者さんで、インスリンによる血糖コントロールが非常に難しい場合や、糖尿病に伴う合併症(下記)が急速に進行する可能性のある方に対して、正常なインスリン分泌を獲得して頂く為の膵臓移植手術です。
インスリンの適正な分泌がなされることで、血糖値は正常化し、糖尿病合併症の進行を抑制します。
インスリン注射から解放されることで生活の質は改善し、さらには脳梗塞や心筋梗塞のリスクを軽減し延命効果を期待する治療法であり、糖尿病に対する根治療法として捉えられています。
膵移植の種類
膵移植には
- 膵臓単独移植
- 膵腎同時移植
- 腎移植後膵臓移植
糖尿病による腎臓の障害がない方、もしくは糖尿病性腎不全に陥ってしまったものの腎臓の移植を受けて移植腎が機能している方は膵臓単独の移植の適応です。糖尿病性腎不全により透析を行っておられる患者さんは膵臓と腎臓を同時に移植する膵腎同時移植の適応となります。
通常は脳死になったドナー(臓器提供者)から提供された異常のない健康な膵臓(もしくは膵臓と腎臓)をレシピエント(臓器を提供される患者さん)に移植します。心停止ドナーの方から提供頂く事もあります。さらに、近親者などから膵臓の半分を提供して頂き生体膵移植を行う事も可能です。
膵移植 登録の流れ
- 相談
まず、かかりつけの医師(糖尿病や透析の主治医)に相談して下さい。
かかりつけ医より当センター移植外科への紹介を頂きます。 - 適応判断
紹介を元に、移植医と内分泌内科医(糖尿病を専門としている医師)が膵(腎)移植の適応があるかどうかについて検討します。追加で必要な採血等の検査があれば行います。 - 登録
その検査結果をもとに膵(腎)移植の「適応あり」と判定されれば、移植医より患者さんに対し膵(腎)移植の説明を行い、日本臓器移植ネットワークにレシピエント登録申請をします。 - 待機
登録後、ドナー(臓器提供者)が発生し日本臓器移植ネットワークにより移植候補に選ばれると、ネットワークより当院に連絡があります。
すぐに当院よりレシピエントの患者さんに連絡させて頂き、移植の意思を再度確認させて頂きます。
レシピエントの患者さんの全身状態が移植手術可能と判断されましたら、入院して頂き移植となります。
ドナーが現れた場合には、レシピエントは登録されている膵および膵腎同時移植希望登録者の中から以下の順で選択されることになります。
- 血液型が一致もしくは適合の待機者が候補となります。
- さらに、提供される方と移植を受ける方とのリンパ球の相性を調べる検査(組織適合性検査)を行い、問題なければレシピエントとして適合となります。
- レシピエントとして適合となる方が複数おられた場合には、優先順位に従います。血液型の一致する方が適合する方より優先となり、同一の候補者が存在する場合は、組織適合性検査の結果判定により適合性がより高い方が優先されます。
- 更に待機者が複数人存在する場合は、膵腎同時移植、腎移植後膵移植、膵単独移植で登録されている順に優先され、待機期間の長い方、臓器搬送に要する時間が短い方が優先されます。
脳死移植の場合、実際に移植手術が行われる施設は認定施設として限定されています。全国に当センターを含め現在17施設が認定されていますが、逆に言うとこの17施設以外での膵移植は実施されることはありません。いずれの施設でも膵腎同時移植も対応可能となっています。
膵移植の適応
膵移植の適応となる患者さんは1型糖尿病の方で、専門医による内科的治療(インスリン療法)によっても血糖コントロールが極めて不良で糖尿病合併症が治療困難な方、糖尿病性腎症の為に腎不全の方(腎移植後の方も含まれます)となります。
一般的にレシピエントとしては60歳以下が望ましいとされています。
活動性のある感染症をお持ちの方、悪性腫瘍を有する方、慢性的な肝機能異常を有する方、消化性潰瘍を有する方は移植手術の適応外とされています。しかし、状況によっては移植を行う事が可能な場合もありますので、移植を希望される方は一度ご相談下さい。
膵臓の仕組みと糖尿病
膵臓とは
膵臓は、長さ約15~20㎝、重さ約100~200gの胃の背側にある臓器です。
十二指腸内にアミラーゼをはじめとする消化酵素を分泌し消化吸収を助ける働きを持つ細胞(外分泌細胞)と、血管内にホルモンを分泌する働きを持つ細胞(内分泌細胞)から成ります。
このうち血糖値をコントロールする為に重要なインスリンを分泌するβ細胞は内分泌細胞に属します。
インスリンは血管内の糖分を細胞内に移行し血糖値を下げ常に一定範囲にコントロールしています。体内では血糖値を下げる作用を有する唯一のホルモンです。
インスリン不足やインスリンの作用に対する抵抗が生じることによって高血糖状態が続く状態が糖尿病です。
糖尿病とは
- 1型糖尿病
- 1型糖尿病になると自己免疫によってインスリンを分泌する自らのβ細胞を攻撃しインスリンの分泌が出来なくなってしまいます。
遺伝子と環境要因が原因と言われており、日本人の糖尿病患者全体の2~4%を占めています。発症年齢が8~12歳が最も多く、若年性糖尿病ともいわれます。
発症するとインスリンが枯渇する為、インスリン注射が不可欠で毎日の血糖コントロールが必要になります。血糖コントロールが困難なことが多く、高血糖昏睡や低血糖発作を繰り返す方も多く見られます。 - 2型糖尿病
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遺伝的な背景や生活習慣による肥満が原因で、インスリン分泌量が減ってしまったり、インスリンの作用に対する抵抗が生じることによって高血糖となります。
食生活のコントロールや適切な運動を行う事で症状を抑える事が可能ですが、重症例ではインスリン注射が必要になります。
40歳以降に発症することが多く、日本人の糖尿病患者全体の約95%を占めています。
糖尿病から起こる合併症
1型糖尿病でも2型糖尿病でも長い間血糖コントロールが悪ければ、さまざま合併症起こします。
糖尿病の合併症は基本的に高血糖状態から引き起こされる血管内障害に伴う血流障害です。
糖尿病の3大合併症として、眼底出血や視力低下をひきおこす網膜症、足先の感覚が鈍くなるなどの末梢神経障害、腎不全が挙げられます。また、狭心症・心筋梗塞などの心血管障害、脳出血・脳梗塞などの脳血管障害、下肢の動脈硬化症、便秘や下痢を繰り返す消化管障害、足の潰瘍や壊疽、など様々です。
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