肝移植

肝移植について

肝移植とは

左葉移植と右葉移植 肝移植は肝不全となった患者さんの根本的治療法です。日本では1989年に初めての生体肝移植が行なわれてから、2018年までに9,000例を超える手術が行われています。
肝移植には死体(脳死)肝移植と生体肝移植があります。脳死肝移植は1993年に初めて行なわれましたが、脳死臓器提供が少なく、当初は年間数例の脳死肝移植に限られていましたが、2010年7月に臓器移植法が改正され、本人の意思が不明な場合でも遺族が承諾すれば臓器提供が可能となったことで年間50例程度の臓器提供があり脳死肝移植数も増えました。しかし、欧米や他のアジアの国々に比して日本の脳死臓器提供はまだまだ少なく、本邦では生体肝移植が施行されることが多いのが現状です。日本の生体肝移植後の5年生存率は18歳以上の成人で73.6%、18歳未満の小児で87.2%と報告されています。
当科では2000年10月から2016年12月までに57例の生体肝移植が行なわれてきました。2007年までに施行された52例の肝移植成績(1年生存率57.7%)について患者さんや一部のマスコミから問題提起がなされ、肝移植を中止していた時期がありました。2012年になり肝移植を専門とする医師による新しいチームができたことにより、肝移植を再開し現在に至っています。脳死肝移植は行なっておらず、生体肝移植のみを実施しており、多摩地域では唯一の生体肝移植実施施設です。

移植件数 グラフ1

当院での肝移植

東京医科大学八王子医療センターでの体制

当科では、2012年10月に生体肝移植再開をホームページでご報告し、2012年12月に再開初例の患者さんに生体肝移植を施行しました。再開初例のドナーは術後12日目に、レシピエントは術後35日目に無事退院されました(写真)。当科では2012年10月から2021年3月までに計10例の生体肝部分移植が施行されています(図)。対象となった疾患はB型・C型の慢性肝硬変、肝細胞癌、劇症肝炎、アルコール性肝炎で、使用されたグラフトは肝左葉+尾状葉が一例でその他4例ではすべて肝右葉を使用しました。最近は中肝静脈枝の再建に大腿静脈グラフトを使用して良好な結果を得ています(図)。また、当科ではABO血液型不適合症例であっても、慎重な適応の検討ののち移植を施行しています(後述)。当科における生体肝移植は島津前教授の体制で再開され、現在では河地茂行主任教授を先頭に一例一例を大切に、症例を積み重ねている最中です。

当科の生体肝移植症例(再開後)一覧

大腿静脈グラフト

生体肝移植は手術経験の蓄積とともに手術の安全性が向上し、標準的な治療法と考えられるようになっています。重度の肝臓病の方でもあきらめずに治療を継続することが重要です。肝臓病でお悩みの方や不安をお持ちの方はまずは当科肝胆膵外科外来を受診するか、当科移植コーディネーターへお電話ください。

お問い合わせ先

東京医科大学八王子医療センター 消化器外科・移植外科
電話:042-665-5611
担当:移植コーディネーター 池田 千絵
外来受診を希望の方は、河地教授(毎週火・木)または千葉准教授(毎週水・第1,3,5土)の消化器外科外来(外来受付 8:30~11:00(第1,3,5土 8:30~10:00))を受診してください。

八王子医療センター 消化器外科・移植外科

ABO血液型不適合生体肝移植

以前は成績が不良のため禁忌とされていたABO血液型不適合肝移植ですが、現在はさまざまな工夫によりその成績は血液型適合移植と遜色ないレベルまで改善してきました(文献1)。当診療科ではABO血液型不適合症例に特徴的な合併症である肝壊死、肝内胆管障害、抗体関連拒絶を予防・治療するために①リツキサン投与、②門脈注入療法(文献2)、③血漿交換、④脾摘などの工夫を加えることで血液型不適合生体肝移植を行っています。2012年に生体肝移植を再開以来、当科ではこれまでに2例のABO血液型不適合生体肝移植が施行され、両症例ともに術後を無事乗り越え、社会復帰をされています。

八王子医療センター 消化器外科・移植外科

八王子医療センター 消化器外科・移植外科

文献1.日本肝移植研究会・肝移植症例登録報告より抜粋:移植 50: 2014
文献2.Tanabe M, Kawachi S, et al. Transplantation 2002;73:1959-61

肝臓移植 患者受診

お問い合わせ先

東京医科大学八王子医療センター 消化器外科・移植外科
電話:042-665-5611
担当:移植コーディネーター 池田 千絵
外来受診を希望の方は、河地教授(毎週火・木)または千葉准教授(毎週水・第1,3,5土)の消化器外科外来(外来受付 8:30~11:00(第1,3,5土 8:30~10:00))を受診してください。

肝移植の適応

主な疾患として下記に示しました。

  1. 肝細胞性疾患
    ウイルス性肝硬変(B型・C型)、アルコール性肝硬変、自己免疫性肝硬変
  2. 胆汁うっ滞性疾患
    原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道閉鎖症、アラジール症候群、カロリ病
  3. 血管性疾患
    バッド・キアリ症候群
  4. 劇症肝炎、代謝性疾患、その他
  5. 腫瘍性疾患
    肝細胞癌、肝芽腫、転移性肝癌(神経内分泌腫瘍)
    ※肝細胞癌については下記のA及びBの条件に合致する場合に限ります。
    1. 脳, 肺, 骨, リンパ節などへの転移と血管侵襲がない。
    2. 5-5-500基準を満たすもの。

肝細胞癌に対する肝移植の新しい基準
5-5-500基準に適応拡大
Nodule size ≦5 cm in diameter, nodule number ≦5, and alfa-fetoprotein value ≦500 ng/ml
長径5cm以内かつ5個以内かつAFP値500以内
With a 95% confidence interval of a 5-year recurrence rate of 7.3% (5.2-9.3) and a 19% increase in the number of eligible patients.
Shimamura T et al. Transpl Int. 2019; 32 (4): 356-368
2020年4月より脳死肝移植に続いて生体肝移植の保険適応にも上記が採用されました。

手術時期

非代償性肝硬変の症状、全身倦怠感・黄疸・腹水・肝性脳症・出血傾向等が出現し、日常生活に支障が出て入退院を繰り返すようになると肝移植を考慮することが多いです。具体的には採血検査の総ビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間および腹水の程度や肝性脳症の有無から算出されるChild-Pugh分類などが用いられ、Cは末期肝不全として肝移植の適応と考えられています。

Child-Pugh分類

Child-Pugh分類 表

生体肝移植ドナーの基準

  1. 原則として65歳以下の健康人。
  2. 心身ともに健康で、肉体的、精神的に肝切除に耐えうる。
  3. 親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)に限定する。
  4. 自分の意思で肝臓を提供したいと思っていること。
  5. 血液型が一致、もしくは適合していることが望ましいですが、最近は血液型不適合移植でも特殊な周術期管理を行うことで成績が改善しつつあります。
  6. 肝臓の大きさが十分にあること。

さらに精密な検査を加え、特に肝臓に関しては大きさだけではなく、脂肪肝などがないことを確認し、ドナーとして適切かどうかを判断します。

肝臓の仕組みと肝臓病

肝臓とは

肝臓は体の中で1番大きな臓器で、ちょうど一番下の肋骨の裏側でお腹の右側に位置しています。
肝臓には左葉と右葉という2つの区域があり、血管や胆汁の流れる管(胆管)も二手に分かれています。左葉と右葉の大きさは個人差がありますが、一般的には左葉が40%で、右葉が60%となっています。生体肝移植ではほとんどの場合、左葉の部分を提供してもらい、患者さんに移植されます。肝臓に流れ込む血管は肝動脈と門脈があります。それらは腸などの消化管から栄養を運び、肝臓でエネルギーとして蓄えます。肝臓から出ていく血管に肝静脈があります。また、肝臓で胆汁が作られるため、その胆汁は胆管という管から腸に流れるようになっています。胆嚢はその途中にあり、胆汁を一旦貯めておく働きをしており、食べ物が腸の中を通ると胆嚢が縮まり、腸に胆汁が流れ脂肪の吸収を助けます。

肝臓の働きで大きなものは、

  1. 栄養(エネルギー)の貯蔵
  2. 出血を止める
  3. 解毒(体の中で作られた有害なものを無害なものに変える)
があり、これらの働きは生きていく上で重要なものとなります。

肝臓はかなりの予備能力と特殊な再生能力を持っています。

肝臓は一部分を切除して小さくなっても、2~3ケ月でその人の体に必要な大きさに戻ります。
しかし、肝臓自体がある程度以上悪化すると元に戻ることは出来ません。悪くなった肝臓は様々な障害を引き起こします。肝臓で作られる胆汁が腸に流れず血液中に入り、黄疸や痒みを起こします。また、肝臓に流れ込む血液が肝臓の中を通過しにくくなるため、近くの細い血管を通って心臓へ戻ろうとする(側副血行路と言います)ために食道静脈瘤や脾臓肥大、腹水が貯まったりします。栄養状態が悪くなり肝臓を通らない血管(側副血行路)を通って脳の方へいくと、意識がもうろうとしたり、訳がわからないことを口走ったり、時には意識を失ったりすることもあります(肝性脳症と言います)。 

肝臓病の主な疾患

肝硬変
慢性肝炎の状態が長く続くと、「肝硬変」(肝臓が小さく縮んで硬くなる)になります。病状の進行に伴い正常な肝細胞が減少しますので、徐々に肝機能も低下し最終的には肝不全へと進行してしまいます。さらに、肝癌を発症しやすい状態になります。原因として最も多いのがウィルス性肝炎ですが、原発性胆汁性肝硬変(PBC)なども肝硬変に至る病気の一つです。
劇症肝炎
肝炎ウイルス感染、薬物アレルギー、自己免疫性肝炎などが原因で、肝細胞が急速に破壊される予後不良の病態です。B型肝炎に起こりやすいとされます。治療は血漿交換を中心とした人工肝補助療法を行いますが、効果が表れない場合肝移植が唯一の治療法になります。
胆道閉鎖症
出生時、もしくは生後間もなく肝外胆道が閉鎖するために肝不全となる難病です。症状としては身体の黄疸が見受けられます。

移植前の検査と心構え

移植前に受ける検査

レシピエント
外来もしくは入院で行いますが、全身状態が芳しくない事も多いので入院で行う場合が多いです。検査内容は血液検査、画像検査(レントゲン、CTなど)、生理機能検査(心電図、呼吸機能)などの検査を行います。
ドナー
基本的に外来で行います。血液検査、画像検査(レントゲン、CT、MRI、超音波検査など)、内視鏡検査、生理機能機能(心電図や呼吸機能検査)など検査を行います。とくに肝臓については詳細に検査を行います。肝臓の一部を切除する手術ですので、肝臓がどれくらい残るのか?が、非常に重要になります。また、悪性腫瘍などがないことも重要です。

肝移植手術について

手術について

生体肝移植術は大きく分けて4つの段階に分けられます。 手術について

  1. ドナー肝切除
    ドナーから肝臓の一部を摘出します。肝臓は解剖学的に左葉と右葉に分けられます。レシピエントの体格に応じて左葉あるいは右葉のどちらかを提供することになります。左葉は右葉に比べ小さく、レシピエントの体格によっては右葉が必要となります。
  2. レシピエント肝臓摘出
    レシピエントの元の肝臓は全部摘出します。この際、移植しやすくするためレシピエントご自身の血管や胆管を形成しておきます。
  3. 提供肝の冷却、保存
    ナーから摘出した肝臓の血液を冷却された保存液で灌流(かんりゅう)して臓器内の血液を洗い流し臓器を冷やします。レシピエントの血管と吻合しやすいように予め調整することもあります。
  4. 血管、胆管吻合
    ドナーの方よりいただいた左葉あるいは右葉をレシピエントへ移植します。通常、血管を3カ所(肝動脈、門脈、肝静脈)、胆管を1カ所吻合します。場合によって術後薬剤を投与するためのカテーテルを留置します。

レシピエントとドナーの手術は同時並行に行われます。ドナー手術で6~8時間、レシピエント手術で12~18時間要します。レシピエントの手術は出血もしやすいため、これ以上かかることもあります。
術後は、レシピエントはICU(集中治療室)に移動になります。術後は移植した肝臓の状態を観察していくことになります。特に血流が重要ですので1日に数回、超音波検査を行い十分な血流が肝臓に流れているかを確認します。

肝移植にかかわる費用・書類

費用・医療費扶助について

2004年1月以降は、一部の肝癌をのぞくほとんどの疾患が保険診療の適応となっています。肝癌について5-5-500基準を満たすものが保険適応となります。これを越えるものについては自費診療となっています。肝がんに対する前治療を受けている場合には、治療を終了した日から3月以上経過後の移植前1月以内の術前画像を基に大きさ、個数を判定し保険適応の有無を決定します。

平成22年より肝移植後の免疫抑制剤(抗免疫療法)が自立支援医療(更生医療)の「重度かつ継続」の範囲に含まれるようになり、患者さんの負担軽減につながっています。

保険の場合
ドナーの方の検査・手術・入院費用はレシピエントの保険に組込まれます。したがってドナーの方の負担は発生しないのが原則です。約200~400万円前後の自己負担額になりますが、入院期間によってはこの限りではありません。但し、所得にもよりますが多くの場合は、月8万円を超える医療費については高額医療費制度があり後に還付されます。
自費の場合
保険が適用されない場合、700万~1,200万円程度の実費が必要となります。合併症などで入院期間が長引けば2,000万円を越える場合もありえます。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/s_iryou.html

検査・手術に関わる書類

レシピエントとドナーの間柄を確認させていただくため、戸籍謄本の提出をお願いしています。ご協力お願いいたします。

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受診される方へ

  • 初診をご希望の方は、紹介状をお持ちになって外来受付時間内に当センターへ直接お越しください。
  • 初診希望で紹介状をお持ちの方は、電話でのご予約も可能です。
  • 初診専用予約電話番号:042-667-5910 042-667-5915
  • 再診を希望の方で予約のない方は、代表電話番号より外科外来へご相談ください。
  • 肝移植・膵移植をご希望の方は、代表電話番号より移植コーディネーターの池田 千絵(いけだ ちえ)へお問い合わせください。
  • 042-665-5611(代表)